2011年4月4日月曜日

北極で温かく暮らして幸福になる方法。【Part 1】 / 「ストーリーとしての競争戦略」に学ぶ

ストーリーとしての競争戦略( 楠木 建 (著) / 東洋経済新報社 :2010/4/23)

ストーリーとしての競争戦略」を読んで感じたことを自分なりにまとめてみました。


 さて、私たちが少しでも安定した状況でより多くの収益を獲得するには、どの分野に根を降ろすかと言う問題はとても重要だ。不況産業で努力するよりも、高収益を可能にする分野で努力する方が賢明であることは疑いのない事実だ。つまり、幸福な暮らしをするために、北極で暮らすか、ハワイで暮らすか、場所の選択から始まるのだ。

たとえばプロ野球やサッカーは人気スポーツだが、同じスポーツでも人気のないスポーツで頑張っても得られる利益は少ないものになる。つまりひとりでも観客の多いスポーツでプレイすることがより多くの収入を約束する。イチローや松井が億単位の契約を可能にしているのも、彼らが人気スポーツの分野に身を置いているからだ。しかも国内に留まらず、努力次第で高額な契約が可能な海外でプレーすることで、より多くの収入を獲得していている。東日本の震災に対する義援金でもイチローが1億円も寄付できたのは、それに見合ったスポーツを選んだことが最初の条件になっている。

このように私たちは、なにをするかで得られる利益は違ってくる。儲けが少ないジャンルで努力するより、儲けの多いジャンルで努力するほうが賢明であるとほとんどの人は知っている。

その一方で、歴史が物語るように、世の中の動きは、これまでも、これからも常に利益が出ない方向へ動いていることは明白だ。すべての企業は時代と共に利益は圧縮され、苦戦を強いられ、新陳代謝を繰り返し、結果的に消費者はより便利な暮らしに向かい続けているのだ。かっては花形産業であったものが、いまでは斜陽産業の代表に転落したケースは、いつの時代にも繰り返され、何度も見た光景だ。ハワイだったはずが、いつの間にか北極になったというお話だ。


■一番大事なこと

そこで、常夏のハワイで暮らす方法を考える前に、我々が、気にしているいくつかの重要な「基準」の内、なにを一番重視するのか、整理しておこう。

・利益 
・シェア    
・成長率    
・顧客満足    
・従業員満足    
・社会貢献    
・株価(上場している場合)

まず利益は絶対額こそが重要だ。しかも長期にわたって獲得できる利益を念頭に置くべきだ。それに比べてシェアは業界内の相対的な規模の話なので、決定的な意味はない。規模の変化を観察する成長率も同じだ。共に利益と正比例するので、利益に従属したものだ。

シェアや成長率を気にする経営者がいるとしたら、それは利益と正比例しているか
らに他ならない。トップマネジメントの表現の仕方で、管理者や一般従業員が勘違いすることもあるので注意したい。人によって解釈が変わりやすい顧客満足は実際には利益そのものを意味している。

顧客満足は利益と同義語だからストレートに利益と言えばいいようなものだが、そうはいかない。わざわざ「顧客満足」を重視するのは、「利益」ではなく、「長期継続利益」を意味しているからだ。しかも「顧客満足」は結果だけでなく、プロセスのあり方も内包している。もしそれらを忘れて、あるいは抜きにして「顧客満足がもっとも重要だ」「利益が一番大事だ」と定義するなら、どちらも歪んだ考え方と言わざるを得ない。

従業員満足や社会貢献は「長期継続利益」を可能にしてこそ実現できるもので、従属的なものだ。つまり最も重視する基準は「長期継続利益」だけなのであり、それゆえ>顧客満足が基準になる。

「長期継続利益」に立ちはだかる障害をどのように越えるか、言い変えると「顧客満足の圧倒的な実現」こそが仕事の本体になる。それ以外は本体ではない。

■長期継続利益

「長期継続利益」の障害つまり仕事の本体になるのは以下のことだ。

・業界内部の対抗度
・新規参入者の脅威
・代替品の脅威
・供給者(仕入れ先)の交渉力
・買い手(顧客)の交渉力

これら5つの障害は、どんなビジネスにも生じる。対象が脅威的であるほど「長期継続利益」は困難を強いられる。あらゆるビジネスは、これら5つの障害によって利益が出ない方向へ誘導されてしまう。歴史が語っているが、ほとんどの場合、代替品の登場、新規参入によって、供給者の交渉力、買い手の交渉力が高まった結果、これまでの牙城が崩れるというパターンを繰り返している。

そのプロセスでは、3つのC、自社(Corporation)、顧客(Customer)、競争相手(Competitor)・・・・ビジネスの3つのプレイヤーの内、誰があきらめるかで一応の決着がつく。

■あきらめさせる戦い

つまりビジネスはあきらめさせるゲームだ。このゲームに勝ち抜くためには、5つのサービスの総合力を大いに発揮して、カスタマー(Customer)がここしかない、これしかないと決め、競争相手(Competitor)がここには勝てないと、あきらめれば決着がつく。

良いサービスとはサービスの総合力の結果だが、その内訳は次の5項目がある。
・商品が完全であること
・欲しいものである(がある)
・コストパフォーマンスが高い
・気持ちがいい
・感じがいい

5つのサービスの総合力で、顧客(Customer)は、本能的に、ここよりもっといいところを探そうとするので、競争相手(Competitor)がここには勝てると思い続ける限り、競争から抜け出ることができないまま、利益が減り続けるゲームを終わらせることはできない。終わらせる方法は自らがギブアップするしかない。あきらめない限り終わらない。

このゲームでは、顧客を参画させ、味方につけた「チームワーク」で、障害に立ち向かうことが大仕事になる。業界内部の対抗度、新規参入者の脅威、代替品の脅威、供給者の交渉力、買い手の交渉力に対抗するにはチームワークが重要だが、顧客から力を引き出す方法が「コンセプト」への共感、共有なのだ。

■コンセプトの力

コンセプトというと、スローガンのように受け止める人があるようだが、果たして本当にそれだけのものだろうか?そうだとしたら、誰も言葉に出さなくなるはずだ。問題はスローガンのように受け止めるだけに終わっていることだ。

ビジネスという航海を、人間の本心にシフトする羅針盤の役割をしているのがコンセプトだ。ないと数字の羅列だけになりかねないので、人の心を動かすビジネスが出来なくなる。つまり「長期継続利益」の獲得が困難になり、人が育たないというような問題に悩まされることになる。

顧客の本心を知るためにアンケート調査をすることがあるが、それで顧客の本心を聞き出すことは出来ない。設問にもよるが、それでも本心は出てこない。たとえばアップル社が出したヒット商品”iPad”は顧客の声から生まれていない。顧客が使い方を想像して、生活が変わる予感じた人が続出したのだ。

この現象を見て識者の間でも「日本には優れた技術があるのに、なぜ作れないの
か」と話題になったことがある。技術の問題ではなく、コンセプトを打ち立てられないことが原因なのは明白だ。なぜ、喜ぶのか。なぜ満足するのか、本当に必要としているのは誰か、なぜお金を払うのか、なぜ価値を感じるのか、なぜ不足があるのか、なにが問題なのか、暮らしの背景にある「なぜ」を洗い出すプロセスで大きな間違いを冒してしまうのだ。

コンセプトは、聞いても聞いても聞き出せない本心をあぶりだすための道具だ。人の暮らしの背景にある「なぜ」を洗い出すことで、あぶりだしたものがコンセプトであるべきだ。「誰が」「何を」求めているのか、一貫して追求して逸脱してはいけない。逸脱せずに追求していたら、「物を売っている」という陳腐な発想は出てこない。誰に何を売っているのか、その本当がはっきりと見えて来る。そして顧客の本心にタッチできるようになる。

■誰に何を売っているのか

誰に何を売っているのかという問題は、自分が買うときの心理を考えたら分かることで、どのような商品、サービスも感情のために買っていることは明らかだ。「長期継続利益」を獲得できるポジションにつこうとしたら、感情を満たすように努めなければいけない。コンセプトはその方向性をはっきりと明確にするものだ。これこそが会社の生命線になるものだ。

本心にフォーカスしている者だけが、はっきりと明確な違いを打ち出すことができるので「長期利益」を獲得できるポジションにつける。このポジションにつける者は少ない。利益の圧縮に伴ってどんどん減っていき、いよいよポジションにつけるかという段階になったときには、ほとんどがあきらめてしまった結果、姿を消してしまうからだ。数少ない者になれる。

たとえば一時期、電気街ではどこもパソコンが占領していたが、いまではマンガ本に替わっている所も多い。先に述べたようにパソコンに限らず、すべての商品が同じような運命を辿る。北極化しているパソコン業界も、デル、アップルなど一部のメーカーは前年以上に販売台数を伸ばし、利益も膨らましている。ある者は敗走し、一部の者が勝利する。その違いは、違いがあったことが結果の違いになったのだ。長期継続利益を獲得する面で優ったのは、コンセプトが明確であり、明確さは顧客満足の面で大胆すぎるほど、はっきりした違いを貫き通していたからだ。

大胆すぎるほどというのは、コンセプトの実現のためには顧客の不便も省みていないという点だ。必要な要因を必要な基準に引き上げるために、中途半端な迎合を捨てる。それでも信頼を獲得しているのはコンセプトが顧客に伝わり、顧客がコンセプトを歓迎し、その実現に参画しているからだ。昔から言われる「損して得取れ」「肉を斬らして骨を斬れ(皮を斬らして肉を斬れ、肉を斬らして骨を斬れ、 骨を斬らして命を取れ)」を実践している。

■因果関係

人間関係はその典型だ。幸福な暮らしを実現するのは幸福な何かを手にするわけではなく、いくつかの因果関係の集積の結果だ。個人の暮らしを「幸福」に導く主たる因果要因はいくつかある。仕事、趣味、家族、財産、知性・モラル、時間がそうだ。これらバラバラの課題を串刺しにして、一貫したものにしているのが自分自身のスタイル(行動基準)で、コンセプトと同じ機能を果たしている。

健康で幸福に暮らしたいという目的から逆算して、必要な要因を適正化する目標を設定し、基準に到達させることで、因果要因は点から線になり因果関係ができて、自分が作られる。他者はその全体に感じるものを観て「あの人」と言う。因果要因のひとつがどんなに優れていても、それで全体が語られることはない。

部分さえ良ければというのは、今日さえ幸せであれば良いに通じる。部分のひとつひとつが基準に達していることが、「長期継続する幸福」「長期継続利益」に通じている。北極でもハワイ以上に温かく暮らせる方法とは、競争相手があきらめていなくなった世界のことだ。あきらめることは相手の判断だが、顧客の後押しがあれば判断の機会を与えることは出来る。それはその方法を事例をもとに考える。

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